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自分や身内ががんになった時、医師の説明が理解できるように、がんの基礎知識を分かりやすく書きました。

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1:がんとは
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がんとは、身体のある部分の細胞の遺伝子(DNA)に異常が起こり、勝手に分裂・増殖を始め、周囲にしみこむ様に広がり次第に大きくなるものです。通常、遺伝子の異常を起こした細胞は、身体の中の免疫細胞に見つけられ殺されて、何事もなく終わります。しかし、年をとるにつれ遺伝子の異常を起こす細胞が多くなり、そのうえ免疫細胞の働きが落ちてきますので、免疫細胞の攻撃をすり抜ける異常細胞も多くなり、がんが発生しやすくなります。ですからがんは老人病ともいえます。早期発見検査の発達した現在、1つのがんを発見し治癒させた後、別のがんができ、これを治癒させるというようにして、3つのがんを治療したという例がそう珍しくなくなりました。

がん発生の初期は、痛くもかゆくもなく、症状はありません。健診または別の目的で検査したとき偶然に発見されます。早期発見のがんは完全に治る可能性が高く後遺症もほとんど残りません。

しだいに大きくなったがん細胞のかたまりが、食物の通り道をふさいだり、血管を破って出血させたり、骨に入って骨折や痛みを起こしたりすると、その場所に応じた障害、症状を出します。またがん細胞は増殖するために多大な養分が必要で、そのため身体は養分を取られるので、疲れやすくなったりだるかったりします。

症状が出てから見つかったがんは、手術をしても完全に取りきれないことが多くなります。さらに化学療法など副作用の大きい治療を受けねばならず、手術もおおがかりになり、後遺症が残ります。

がん細胞の一部が元の場所を離れ、血液やリンパの流れに乗ってあちこち飛び火(転移といいます)していると再発の原因になります。手術をする前に転移がないかどうか調べますが、きわめて小さなものは発見できません。手術で全部取りきったと思っても、手術をする前にすでに転移していた微小ながん細胞が再発を起こすことがあります。再発を繰り返すと、完全に治る可能性が少なくなります。

ようするにがんとは、親の目を盗んで勝手に家の金や物を持ち出すどら息子のようなものです。身内なのでなかなか犯行に気づきません。常に財産をチェック(健康診断)していれば、早めに犯行に気づき(早期発見)、大事には至りませんが、気がつくのが遅いと、いつのまにか財産が無くなり、あちこちに親の知らない借金(転移)があり、取り返しがつかない状態になっていて、家は破産(死亡)します。

乳がんのように体表にできるがんは、触ると岩のように硬いため、岩の古い字体「嵒」に病だれをつけて「癌」という病名ができました。

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2:がん、悪性腫瘍、悪性新生物、占拠性病変とは
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身体を構成する細胞は、常に分裂・増殖・細胞死をくりかえし入れ替わっています。正常な細胞の分裂・増殖はコントロールされていて、あるところで止まります。ところが、遺伝子の異常が起こるとこのコントロールがきかず、勝手に増殖を続けて大きくなるものができ、これを「腫瘍」あるいは「新生物」と呼びます。腫瘍(新生物)には良性と悪性があります。良性腫瘍というのは、腫瘍全体が被膜(カプセル)につつまれ正常との境界がはっきりしていて、成長が比較的に遅いものです。悪性腫瘍は被膜をもたず、周辺にしみこむ様に侵入(浸潤といいます)してゆき、従って正常との境がはっきりしません。成長は比較的早いものです。

正常との境界があるかどうかは、手術で全部取り除けるかに関係します。砂場にりんご(良性腫瘍の例)を埋めておいて、これを全部取り出す(完治)のは簡単です。しかし、土の中に小さなけしの種(悪性腫瘍の例)をひとにぎり埋めておいて、けしの種を全部取り出せといわれると大変です。周りの土(正常部分)といっしょに全部取るよういろいろ工夫しますが、少しでも取り残しがあると芽がでてきます(再発)。これが悪性腫瘍の恐い点です。

良性腫瘍だからといって完全治癒するとはかぎりません。できる場所と大きさで、手術で全部取りきれないことがあります。その場合再発はまぬがれません。また良性腫瘍が悪性になることもあります。大腸にできるポリープと呼ばれる小突起組織は、最初は良性ですが、次第にがんになるものもあります。

腫瘍が最初に発見されたときには、まだ良性か悪性かわからないことが多いので、その場合は占拠性病変と呼ばれることがあります。何かかたまりがあるという意味で、主としてレントゲン読影の際に使われる用語です。

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3:がん、肉腫、白血病とは
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悪性腫瘍(悪性新生物)は、広い意味では「がん」と総称しますが、専門的にはできる場所(正確にはどういう細胞からできたか)により、呼び方が異なります。身体の表面と口腔を、発生学(受精卵から成体の組織・器官ができるまでの仕組みを解明する学問)では外胚葉(がいはいよう)といいます。のどから肛門までの身体の内側、主として呼吸器・消化管・生殖器、およびその附属器官を内胚葉(ないはいよう)といいます。この外胚葉と内胚葉からできる悪性腫瘍を狭い意味の「がん」といいます。この中には、皮膚がん、耳下腺がん、舌がん、喉頭がん、肺がん、食道がん、胃がん、十二指腸がん、肝がん、胆嚢がん、膵臓がん、大腸がん、直腸がん、卵巣がん、子宮がん、前立腺がんなどがあります。

身体の表面と内側の間は、骨や筋肉などの体を支える組織と血液で、これらを中胚葉(ちゅうはいよう)と呼び、これからできる悪性腫瘍を「肉腫(にくしゅ)」といいます。骨肉腫などです。

腫瘍の基となる細胞により、がんや肉腫という用語を使わない場合があります。その場合、多くは基となる細胞の名前をつけて○○腫と名づけます。ただし、血液成分(赤血球、白血球、血小板)をつくる細胞からできる悪性腫瘍は「白血病」といいます。血液のがんと考えてください。白血球の一種であるリンパ球の新生物はリンパ節などに腫瘍を形成し、悪性リンパ腫と呼ばれます。

そのほか、皮膚のメラニンを持つ細胞からできる黒色腫、目の網膜からできる網膜芽腫などがあります。人の名前のついたウイルムス腫瘍(子供の腎臓から発生する悪性腫瘍)というのもあります。時には、上記白血病やホジキン(悪性リンパ腫の一種)病のように腫という名前をつけないものもあります。

腫といった場合は、かたまりだけでなく中に液体がたまっている風船状のものも指しますので、○○腫といっても真の腫瘍でないものもあります。水腫、血腫は腫瘍ではありません。嚢腫(のうしゅ)というと腫瘍性のものもあります。慢性中耳炎を経てできる耳の真珠腫は外観から名前をつけられたものですが、死んだ細胞が除去されないでたまってできたかたまりで真の腫瘍ではありません。

脳は外胚葉の特殊な部分、神経外胚葉に分類されます。しかし脳からできる悪性腫瘍は、脳がんと言わず、脳腫瘍といいます。そして脳腫瘍の場合は、良性腫瘍も含みます。従って脳の悪性腫瘍は、悪性脳腫瘍と総称します。

以上述べたように、専門的にはがんと言わないけれど、がんと同じように悪性な肉腫や白血病などを広い意味の「がん」と呼び、がんセンターでは広い意味のがんを治療します。

がんが治るかどうか、あるいはどのくらい生きられるか、生存期間の見込みを予後といいます。予後不良とは助からないという意味です。予後を決めるのは、がんの種類(悪性度)とがんの拡がりかた(進行度)です。

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4:がんの種類、がんの病理組織診断と悪性度
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がんはすべて悪性ですが、その中でもきわめて悪性といわれるものがあります。発育が早く(月単位)、すぐに転移して、早期発見しても死亡率が高いものです。わざわざ悪性○○腫と言ったりします。ただし、きわめて悪性のものは放射線や化学療法が非常に良く効くものが多く、一時的には良くなり、時には完治することがあります。

一方比較的良性といわれるものもあります。発育がゆっくりしていてがんができてから何年もかかって初めて症状を出します。こういうがんは再発するのも遅く、早期発見して手術で完全に取ると、他に転移していることが少なく、100%治る確率が高いものです。

悪性度は、同じ組織(例えば肺)の中のどのような細胞(例えば分泌腺細胞か扁平上皮細胞か)がどの分化段階でがんになったかにより異なります。

受精卵が分裂を繰り返し、しだいに人間の形をつくってゆく過程を分化といいます。最初の細胞は身体のどのような部分にもなりうる能力を持っています。これが話題のES細胞と言われるものです。それがしだいに皮膚をつくる方向、肺をつくる方向などに分化するのです。分化には種々の段階があり、一般に未分化(ES細胞に近い)の段階から発生した腫瘍ほど悪性で、未分化がんとか○○芽(細胞)腫あるいは小細胞がん(どの分化段階の細胞から発生したか不明で、形体から名づけている)などと呼ばれます。

このような診断は、手術あるいは生検(せいけん、腫瘍の一部を針状の器具で採取すること)で取った腫瘍を顕微鏡で調べ、どのような細胞から発生したか見きわめて行います。これを病理組織診断といいます。したがって、がんは、先ず発生した臓器により大きく分け(例:肺がん)、それから組織をとって、さらに病理組織診断(例:腺がんあるいは小細胞がんなど)を行い、悪性度を判定します。

脳組織は主として神経細胞と神経膠(しんけいこう)細胞とから成り立っています。神経細胞は神経活動を行う細胞で、生後はもう分裂しないので、胎児のときにできるものを除き生後は腫瘍をつくりません。分裂しない細胞からは腫瘍はできません。神経膠細胞とは神経細胞を支える細胞で、悪性腫瘍はほとんどこの細胞から発生し、神経膠腫(グリオーマ)と総称されます。神経膠腫の中にきわめて悪性なものが2つあります。1つは、子供の小脳にできる髄芽腫(メデュロブラストーマ、ただし放射線治療が良く効き、完治の可能性があります)で、も1つは成人の大脳にできる神経膠芽腫(グリオブラストーマ、現在のところ完治の可能性はありません)です。他の種類の神経膠腫は、悪性度をグレード1から4に分けます。1は比較的良性で4は最も悪性です。

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5:がんの転移
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がんの拡がり方には、1)しみこむように周辺に拡がる、2)リンパ液や血液に入りこんで遠くに転移する、3)脳脊髄液や胸腔、腹腔に入り込んで腔内に拡がるなどがあります。

身体の中にはリンパ組織というのがあり、リンパ液が流れるリンパ管の網が全身をはりめぐらしています。リンパ管の途中にリンパ節(一般にリンパ腺と呼ばれています)という関所があってリンパ球などの免疫をつかさどる細胞が待ち構え、がん細胞や身体の外から入ってきた細菌などを攻撃します。がん細胞がリンパ管に入ると近くのリンパ節にひっかかり、そこで免疫細胞との戦いに勝つと増殖し始めます。これをリンパ節転移といいます。腫瘍本体の近くのリンパ節に真っ先に転移します。

がん細胞が直接血管の壁を越え、血液の中に入ると、血流に乗り,身体中をめぐり、どこかにひっかかると、そこで増殖し始めます。これを血行転移といいます。もとの場所から遠く離れた場所に転移するので遠隔転移といいます。

脳と脊髄は周りを髄膜という膜(外側から硬膜、くも膜、軟膜。軟膜は脳・脊髄にぴったり癒着している)で覆われ、脳・脊髄とくも膜の間はくも膜下腔と呼ばれ、脳脊髄液という液で満たされています。胸壁内側と肺の間を胸腔といい、腹壁内側と肝臓、脾臓、胃腸の間を腹腔といいます。正常な状態では腔は密着して閉じていますが、病気で水がたまったりすることがあります(それぞれ胸水、腹水)。くも膜下腔、胸腔、腹腔にがんが転移して拡がった状態を、それぞれがん性髄膜炎、がん性胸膜炎、がん性腹膜炎といい、がんがかなり進行した状態です。

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6:がんの進行度、がんの大きさや広がり方による分類
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がんの種類(悪性度)だけでなく、がんの大きさや広がり方、すなわちがんの進行度も予後(よご)の指標になります。

多くのがんで、検査所見、手術所見(生検だけの場合もある)と病理組織検査の結果で、TNM分類を行います。TNM分類とは、腫瘍の大きさ(T)、周辺リンパ節にどれだけ転移しているか(N)、遠隔臓器への転移(M)があるかどうかを診断して決めるものです。TNM分類は、カルテ記録用で、一般には説明されません。

がんの大きさだけでなく、消化管のがんではがん細胞が消化管の壁のどこまで浸潤しているか調べます。内側から、粘膜層、筋肉層、漿膜(しょうまく、消化管の外側をおおう膜)に分けられ、がんが粘膜層内にとどまっていれば、転移の可能性はほとんど無く全治可能です。また胃がんなどでは、がんの形態での分類もあります。

TNM分類をもとに、すなわちがんの大きさ、リンパ節に転移があるか、遠隔転移があるか、さらにがんの浸潤度など、各がんによって決まった定義にしたがい、病期(ステージ)分類がなされます。病期は4段階あり、I期が最も良く、IV期が最も悪いものです。各病期をさらに、a、bと細分することもあります。患者さんには、病期が告げられ、放射線治療や化学療法など追加の治療がすすめられ、また標準治療を行った場合の予後、平均的な生存率が告げられます。

比較的良性ながんであっても、病期がすすんだもの、すなわち手術で取りきれないほど拡がったり、遠隔転移しているものは進行性のがんと言い、取り残した部分の治療がむずかしく、一般に予後不良です。

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7:がんの予後(よご)
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がんの分類はたくさんありますが、一般にがんの種類により国際分類や日本の各学会で決めた分類が使われます。それに従って「がん」の病理組織、大きさ、広がり方などをきっちり診断して、TNM分類や病期(ステージ)分類し、初めて治療の方針が決まり、また予後の予想がたてられます。このような分類をきっちり行わないで、単に○○がんに××が効いたといっても、医学界では信用されません。

予後は、標準治療後の5年生存率で語られます。きわめて悪い場合は、予後何ヶ月などといわれます。これらの数字はあくまでも平均的なものですから、個々人の生存期間には巾があります。手術などでがんが消えて5年経つと、治った、卒業だといわれますが、がんの種類によっては5年以上たってから再発するものもありますので現実は冷酷です。

がんが見つかったらすべて治療するとは限りません。なかには「がんもどき」と呼ばれるきわめて発育の遅いものがあります。前立腺がんも発育が遅いといわれています。このがんは、血液中のPAという腫瘍マーカーを測定して早期診断します。しかし早期治療をしてがんが消えてもいろいろ不愉快な後遺症を残すことがあります。前立腺がんのような発育の遅いがんでは、現在症状が無い場合、すぐに治療をすべきかPA検査を定期的に行いつつしばらく様子を見るべきか悩ましい問題です。

昔は、がんの宣告は死の宣告ととられていましたので、本人に知らせることをしませんでした。今は治療により治るがんが多くなりましたので告知をするようになりました。治療を受ける本人が知らないと、副作用の多い治療がうまくゆきません。治療可能な場合は告知するのが普通です。

死ぬときは「ぽっくり」と急死するのが理想的と考える方が多いですが、なかにはどうせ死ぬならがんで死ぬのが良いという人もいます。ぽっくり死ぬと身辺整理ができず、周りの人に迷惑をかけます。治らないがんであっても、死ぬのは何ヶ月あるいは何年か先ですから、計画的に身辺整理ができ、他人に迷惑をかけないですむというのです。それに、かつてはがんの痛みで苦しむことがありましたが、今では痛みを積極的に治療するようにしますから、苦しむことは少なくなりました。

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